平成19年08月16日(木曜)

16日手術当日の手術までに私がメモした内容です

 

院内でのマナー

病院に来たら服を着替えてください

ビョウイ、そう病衣に着替えることです

これであなたも立派なクランケ(患者)になれます

まず、病院内で歩く場合

そう、病衣を着て院内を歩く場合は

ヒザを大きくあげて闊達(かったつ)に歩いてはいけません

スリッパを引きずるように、ダラダラと歩くのがマナーです

不思議とどんな健康な人でも

病衣を着て院内を歩いているときは病人になったような気持ちになれます

病院という雰囲気がそうさせるのでしょうか

それとも病衣という代物がそうさせるのでしょうか

ま、とにかくあなたも立派なクランケですな、ハイ

 

デュープロセス(適正手続)

手術は明日の11時からと宣言される

いろいろな担当者がやってきて説明する

しかし、担当者はみなマスクをして私がお待ちしておりますとかという

わかるかー、こっちは皆同じ人間に見える

ピンクのマスクとシマの帽子とか

競馬のジョッキーみたいに色が付いているならまだしも

そんな、同じマスクに同じ帽子をかぶって目だけ出して私ですなどといわれても区別がつかない

やっている方は患者が手術室に入ってから初めて会うより安心感があるのではないかという

そんな優しい配慮なのか、いやそんなことは二の次、自分たちが患者を間違わないために

クランケを確認に来たということだろうか

ま、とにかくいろいろな係の人がいろいろな説明をしてくれる

 

手術の準備

まず前日にはテイモウしますと言って看護婦が病室にやってきた

急にベットの周りのカーテンを閉めて説明し始める

お腹を切りますので消毒するための準備をさせていただきますと

こっちはイヤですともいえないから、ハイどうぞとなる

すると彼女が失礼しますといって下着をおろす

どこまでおろすのかと思っていたら

お腹沿いにどんどん下がっていって下着が引っかかるところで止めた

こっちは彼女の作業を熱く見つめているわけにもいかないので

目を閉じているしかない

急に何か機械のスイッチが入ったような音がする

ブゥーンと機械的な連続音が私の下っ腹のあたりで聞こえる

おへそのあたりに何かが当たった

ひげそり機だ

しばらくへその近辺からジョリジョリとやっていたが

彼女は正当な理由を述べる裁判官のように「広い範囲を消毒しますから」と告げると

一気に下の方へバリバリと分け入っていった

その後、回転式のガムテープのようなロールをお腹の上一体に這い回して

ベットの上にもそのロールを回して

下がった下着を上げて出て行った

 

睡眠導入剤

手術の前日

下剤と睡眠導入剤を飲むようにと夜持ってくる

ここだけとらえたら

どこかの横綱じゃないけれど

「睡眠導入剤を服用しているとのことです」などと報道されようものなら

わたしゃうつ病一歩手前のような雰囲気になる

しかし、看護婦の説明に寄れば

熟睡していないと手術の後大変だから飲んでくださいという

なるほどと納得し、下剤も寝る前に飲んでも寝ている最中漏れることもないと経験しているから

安心して服用した

何事も経験だ、などと納得しながら、おかげでしっかり寝られた

 

朝7時

「タカノさーん、カンチョウしますねー」とやってくる

「5分我慢してくださいね、はい入れますね」

5分

5分とは1分の5倍

1分とは10秒の6倍

10秒とは1秒の10倍

えらく長い時間だと思った

 

1分は経っただろう

2分は経っただろう

ん、ん

2分20秒は・・・

ん、ん、ん

25秒は・・・

あ、お

なにやら病室が静まりかえっているような気がした

 

どこまで我慢できるか

という問題よりも

ここでおかしなことになったらどうなるか

哲学者の世界だ

自己の尊厳をいかに守るべきか

現実的な状況に臨機応変に対応すべきか

長い葛藤が始まったと思ったが

思考が振れるのだ

大きく振れるのだ

そしてそれはだんだんスピードを速めて収束してゆく

結論は出た

 

ゴソゴソとベットから起き出して

トイレに直行なのだ

トイレは病室の入り口にあって

私のところから10歩でいける

やっと一安心、と思ったらこれが間違い

ここからが大変なのだ

とにかくお腹が痛い

冷や汗が出るやらお腹が痛いやら

とにかくトイレにへばりついている

 

「ハイ、いいですね」

どのくらいの時間が過ぎただろうか

なにやら病室の方で私の向かいのおじさんが

なにか看護婦を呼んだようだ

あのおじさんも大変だよな、あちこち具合がよくないようだ

などと考える余裕などなかったが

廊下を早足で看護婦がやってきた

病室に看護婦がやってきてゴソゴソと話をしているようだ

しばらくしたら静かになった

と、急にドンドンドンとトイレの扉をたたく音がする

そして高めのトーンでおばさんの声がした

「タカノさん、だいじょうぶですか」と

大丈夫だと返事をする

しかし、まだまだトイレにへばりついている、いっこうに楽にならない

 

またしばらくしたらドンドンとドアをたたく

「タカノさん終わったら水を流す前に、脇にある赤いボタンを押して呼んでくださいね

具合を確認させてもらいます」と言う

なんといいようもないからハイと返事をする

それからかなりたってからようやく私は渋々ナースコールボタンを押した

すると看護婦がやってきて、確認して言う

「ハイ、いいですね」

AM6:21

今日はいよいよ手術の日だ

ぐっすり寝られた

目が覚めた

早朝の院内を散策する

1階まで降りてみる
ガラス張りの中庭に飾られたブロンズ像だ

病院正面ロビー

各ブロック別の待合室だ

廊下には椅子がただ置かれている

エレベータで病室に戻る

エレベーターから中庭の吹き抜けを通して
病棟の待合室からの景色が見える

この病院の形は最初とまどう

すべてが直角ならわかりやすいのだが

一番人が出入りする場所が三角形になっているものだから

最初は三角形になっているという感覚がないものでおかしな感覚になる

自分のベットに戻って天井を見る

見えるのは自分のベットにつけられた自在アーム付きのスタンドだ

各患者を仕切っているピンクのカーテン

そう、また点滴につながっている

私のテーブルには禁色表示板と吸い飲みが置かれている

腕には私の名前と生年月日がバーコード付きでつけられている

いよいよ手術の準備が始まる

術衣に着替えて、左手には点滴のスタンドを携えそして足にはストッキング

そう、ストッキングをはかされるのだ

看護婦がエコノミー症候群をご存じでしょうかと説明する

ハイハイとうなずいていたが

これが実は大変なのだ

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